夕焼け特急

夏が終わってた。

よりにもよって台風なんか来たせいで、窓を叩く風の音に叩き起こされてベッドを這い出すととても肌寒かった。

「夏終わりましたよーーー!」と耳元で大声で怒鳴られてるような不愉快な気分で、内定式のため向かう東京の気温を見たらその数値は34℃まで跳ね上がっていた。名残惜しかったはずの学生最後の夏の粘り強さももはや鬱陶しい。

 

どうせ交通費が支給されるのだからと会社の金で乗った新幹線はとても心地がよかった。小一時間ほどの居眠りから覚めると、前の席にひとりの男が来て、座るなり深々と倒されたリクライニングシートに圧された。

 

僕は小心者なので後ろに人がいるときは滅多にリクライニングを倒せない。必要に応じて声をかけて申し訳程度に倒したりもするけど、大抵はその手間を惜しんで直角の椅子に甘んじる。だから何も言わずにリクライニングを倒されるだけでイラッとするし、たとえ声をかけられてもあんまり深く倒されるとムッとする。

 

なので(断りなし+深々)リクライニングをかました前の席の男に対し、小心者の僕は「おっ、やんのか」くらいの苛立ちを腹の底に潜めながら過ごしていた。しかしふとトイレに行きたくなって席をたったときに前の席をチラと見たら僕の前の席には鞄しか置いていなかった。荷物置きの席リクライニングさせるやついるか?普通。

 

そんな苛立ちを小水とともに流して席に戻ると、外の景色はもう宇都宮だった。

思い出すのは大学1年生の頃、一度宇都宮でわけもなく途中下車したことがある。ライブだったか友達に会いに行ったのか、東京に遊びに行って1泊した帰りの電車だった。当時、僕は夜行バスで後ろのオジサンに足を背もたれに乗せられたことがトラウマになっていたため夜行バスには乗りたがらず、その日はわざわざ普通列車を乗り継いで帰った。せっかく鈍行なのだから降りてみようか、とふと宇都宮で降りた。大した目的もなく降りた宇都宮だが、来た以上は餃子を食べるほかあるまいと餃子屋を探すことにした。次の便まで1時間程度だったので駅付近で何か手頃なところはないかと調べたら、ご存知「みんみん」がヒットした。

 

「みんみん」は宇都宮駅の近くには確か3件あって、それぞれ定休日も異なっているのだが、その日は1件目が定休日、2件目は不定休がたまたま重なり、3件目は改装中だった。

あまりの間の悪さゆえ「みんみん」を食べることは叶わず、結果なぜか大して好きでもないのに水餃子の店に入ってしまい(焼餃子>>揚餃子>>>>>>>>>水餃子くらいの順位)、そこの店主のじいさんの愛想も食べログ的に言えば星1.5くらい悪かったので後悔の残る思い出となった。餃子の味は忘れてしまったが、あの居心地の悪さは今でも忘れられず、宇都宮を通過するたびにあの店を思い出す。

 

 

そうしてたどり着いた東京での内定式も無事終わり、終電は間に合わなかったため千葉の友達の家に1泊した。

今日はもう帰るばかり。今回は途中下車はしない。会社の金で新幹線に乗ってるからね。