俺の本棚(小説編)

ちょっと前にお題箱に「星新一の印象に残っている話」というのが来ていて、書こう書こうと思っていたのだけれどいかんせん中学生の頃に少し読んだくらいなうえ内容もほとんど忘れてしまったので記事を書くのが卒論以上に捗らなかった。

というわけでここは対象を広げて、僕の部屋のロフトにある本棚の一角を占める小説のコーナーからいくつかつまみとって紹介させてもらおうかなあと思う。

 

○未来いそっぷ / 星新一

未来いそっぷ (新潮文庫)

未来いそっぷ (新潮文庫)

 

とりあえずお題を消化。今更説明する必要もないだろうけど、星新一ショートショートの作家であり、本作も2,3~20ページ弱くらいの長さのショートショートがおよそ30編ほど収録されている。一週間を費やして分厚い文庫本を読んだ時のように作品に感情移入することもなければ読後に大きな余韻を噛み締めることもないが、どんでん返しや皮肉のきいた落ちまでをたった数ページで、しかもいくつも味わえるというのは作品の美味しいところだけをつまみ食いしているようで非常に贅沢な気分になれる。

前述のとおり内容をほぼ忘れてしまっていたものの、「印象に残っている話」と言われたときに一つだけぼんやりと脳裏に思い浮かんだ話があった。先日家にある短編集をぱらぱらと読み漁って探したところ、本書の中の「ある商品」という話であることがわかった。以下あらすじ。ネタバレあり。

 

ある日突然地球に訪れた円盤から宇宙人が現れた。ピエロのような姿でにこにこ顔を浮かべた彼は、名乗ることには宇宙の商人らしいが、人々は彼が侵略者かもしれないと疑う。彼は自らがほんとうに商人であることの証明も兼ねて、ある商品を紹介した。それは「若返り薬」であり、病気の老人にその薬を使ってみるとその老人はたちまち30歳ぐらいまで若返り元気になった。その光景を目の当たりにした人々は彼を信用し「若返り薬」を欲しがったが、彼が言うには「こんなものは客寄せの宣伝品ですし、地球に存在する物質でも作ることができますので、今この場で製法をお教えしましょう」とのこと。円盤の報道に来ていたテレビカメラによって若返り薬の製法が世界へと報道される最中、ひとりの学者が慌ててテレビ局へと駆け込んできた。

「その報道を止めろ。若返り薬が人々の手にわたれば、人が寿命で死ぬことはほとんどなくなり、人口は一方的に増え続け、やがては食糧難や奪い合いの戦争にまで発展する。何度計算してもそういう結果になるんだ」

しかし時すでに遅し、若返り薬の製法はすでに世界中に知れ渡ることととなってしまった。

「人口を爆発させて地球を滅ぼすつもりだったのか。やはりお前は侵略者だったんだな」

地球人の代表がそう問い詰めると、宇宙人はそれを否定し、自らがロボットであるという事実を打ち明ける。

「私の住む星ではロボットが反乱を起こして住民をみんな滅ぼしてしまった。ヒトを滅ぼして気持ちは良かったが不便なこともある。くだらぬ雑用をする者や植民地で働く者がいないのだ。しかしそのためのロボットを作るのはコストがかかり過ぎるため、奴隷を仕入れた方がいい。地球で増えすぎた人間を、私たちの星で買い取りたいというわけです」

宇宙人はにこにこ顔のまま言う。

「つまり私は、奴隷商人なので……」

 

 

愚者のエンドロール / 米澤穂信

愚者のエンドロール (角川文庫)

愚者のエンドロール (角川文庫)

 

・あらすじ

<古典部>シリーズの第2作目。主人公の所属する「古典部」のもとに、文化祭に向けてミステリー映画を自主制作した2年F組から試写会の招待が来る。しかしその映画は脚本家の体調不良により、事件の解決編が描かれないまま終わっていた。古典部の面々は、その映画の幻の解決編において誰が犯人だったのかを探し当てる「探偵役」を依頼される。

 

中学生の頃に「ボトルネック」という小説を読んでから米澤穂信の密かなファンである。なんといってもこの作者、バッドエンドを書くのが上手い。別にバッドエンドが好きなわけではないが、好調な帰結を迎えると予想した盤面が二転三転とひっくり返される展開と、不快さすら覚えるような言いようのない読後感は、次の本に手を伸ばした後ですらも残り続け、いつしか癖になってしまう。本書を読み進めた先にも予想を裏切る展開が待っており、とても苦い気分を味わえる。なんとも後味が悪くはあるのだが、上にあげた「ボトルネック」やあの作品よりは救いがあるし、何よりこの<古典部>シリーズはこの作者の著書の中でも比較的ポップでなんならアニメ化もされているくらいなので気軽に手を伸ばしてみてほしい。

 

コインロッカー・ベイビーズ / 村上龍

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)

新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫)

 

・あらすじ

コインロッカーで生まれた2人の男「ハシ」と「キク」は孤児院で暮らした後、炭鉱跡の島にいる養父母に引き取られる。やがてハシは本当の母親を探すべく東京に旅立ち、キクもその後を追う。東京へやってきたキクはワニと暮らす少女アネモネと出会い…

 

大学受験の頃に読み耽ってしまった罪深い一冊。僕が敬愛してやまないthe pillowsというバンドの現リーダー山中さわおの愛読書であり、彼はピロウズの結成以前に本書と同名のバンドを組んでいた。

純文学(そう定義していいのかわからないけど)なんてそれまで全くと言っていいほど読んでこなかったし、その内容のドス黒さもあって初めは怯んでしまったが、読み進めるうちにいつしかその毒気に魅了されてしまった。

うちの高校は進学校を名乗るくせに受験期間まで朝読書の時間があったため、毎朝この本を読み進めることによりドス黒い気持ちで1日を始めていた。やがてそれに耐えられなくなり、勉強もせずに夜更かしして読み進めたのを覚えている。

滅茶苦茶に人を選ぶ作品だとは思うけど、その分生々し過ぎる描写や世界観の深さにハマった時、読後に残るものはその辺の数多の小説とは比べ物にならない程にあると思う。おすすめはできないけど読んでほしい、そんな一冊です。

 

夜のピクニック / 恩田陸

夜のピクニック (新潮文庫)

夜のピクニック (新潮文庫)

 

・あらすじ

高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために――。学校生活の思い出や卒業後の夢など語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。

 

本棚から厳選して抽出したくせに、実はこの作品、未読である。あらすじもアマゾンの内容紹介から全文コピペした。ではなぜ僕はこの作品を選んだのか。

大学入学当初、名字が近いというだけで仲良くなった仮初めの友人たちがいた。とりあえずぼっちを避けるためにつるんでみたものの、それぞれが学内で新たなコミュニティを築くうちに徐々に疎遠になり、2年生になりコースが分かれて数ヶ月が経つといよいよ滅多に会うこともなくなる、そんな関係だった。その中の一人に読書家の奴がいて、彼から2年の春先ごろに借りたのがこの本である。読んだのは実に最初の2,30ページのみ。そのまま続きを読むことも、彼に会って本を返すこともないまま3年が経とうとしている。今更どんな顔をして返せばいいのかわからないこの本が、本棚にまるで僕のものみたいに居座っているのを見るたびに胸が痛む。

いかんせん読んでいないのでおすすめのしようもない。むしろ誰か読んで僕におすすめしてください。そして本を貸してくれたあなたがもしこの記事を見ていたら連絡ください。借りパクしてごめん。

 

 

以上、水増しを重ねているうちに想定以上に長い記事を書いてしまった。

こんなもの読んでる暇があったらショートショートの1編でも読んだらどうだい。